2012年3月12日月曜日

ひげ

ひげを剃った夜にこんな詩をお届けします。
会ったことも無いのに敬愛する谷川俊太郎さんの詩です。
息つぎ無しでお楽しみください。




ひげ

ひげが生える
ひげが生える男のあごに男の唇のまわりにひげが生える
夜明けと共にひげが生える見知らぬ植物のめのようにひ
げが生える女の柔らかい頬のためにひげが生えるサルバトル
ダリと共にひげが生えるいつしょうけんめいひげが生え
る太陽に向かつてひげが生える男たち
だが
ひげをそる朝になるとひげをそるバスの時刻を気にしつ
つひげをそるかみそりはジレツトバレツトひげをそる女
の愛撫に恐怖をおぼえてひげをそる血を流しながらひげ
をそる
もみあげからおとがへと 鏡の中をすべつてゆく死ん
だ魚
ひげをそる
そのそりあとは青い海ひげをそるカンヌの社交界のため
にひげをそるモナコの退屈のためひげをそるゴルフの
グリーンのようにひげをそる士官候補生ひげをそるサギ
師ひげをそるやもめひげをそる市民
いけない!
ひげをはやすのだ
テキサスのサボテンのように
ひげをはやすのだカストロのようにひげをはやすのだリ
ンカーンのようにひげをはやす自由を求めてひげをはや
すモンクを求めてひげをはやす女たちのためにひげをは
やすライオンの兄弟ひげをはやすなつかしい地獄のショ
ーキ様ひげをはやす自然に十分自然にひげをはやすそし
て演説する男たち

                   谷川俊太郎




そろそろひげ剃れそろそろひげ剃れ
ひげを剃って猫をかぶろうニャーーーーン!!!!

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